ビビたちと別れて別の入り口から侵入したライオネルたちは、想像以上の内部の複雑さに辟易していた。
シメオンのバックにいる人物が奥にいるはずで、決戦は近いと改めて気を引き締める。
が、ライオネルはとあることに一抹の不安の不安を覚えた。
「アロン先生、絶対に我々から離れないで……」
言いながら振り返った先に該当の人物はすでになく、ライオネルはがっくりと肩を落とす。
ライオネルを先頭にして、ローズとミカルの後ろにいたはずなのだが、こんな時でも迷い癖が抜けないらしい。
「アロン先生のことだから心配はいらないだろうが……」
何せライオネル兄弟が二人掛かりでも勝てるか危ういのだ。
それでも一応手分けをしてあたりを探してみることになった。
その最中、ローズはクライム・スネークに引導を渡し、ライオネルはマックスと剣を交えた。
ミカルは特に収穫はなく、三人ともアロンを見つけることができなかった。
そこでミカルはライオネルに申し出た。
「兄上たちは先に行っていてください。私はもう少し捜してみます」
ライオネルは少し迷ったが今は時間が惜しく、ミカルの提案を飲んだ。
ミカルは二人と別れるとアロンの名を呼びながら探し始める。
道を覚えながら慎重に進み、どうしたらあそこまで盛大に迷子になれるのか不思議に思う。
それ以上に不思議なのは、アロンが必ず目的地にたどり着くことだった。
どれだけ道に迷い、遠回りをして時間がかかっても、最後には自力でたどり着いて笑うのだ。
そういう巡り合せを持ち、加えて彼の実力を考えるとアロンの命が危険にさらされることはないように思う。
けれど胸騒ぎが止まらない。
何もできなくてもアロンのそばにいてやりたいという思いが、焦燥としてミカルを駆り立てる。
そしてようやくその場所を見つけた。
そこは一見すると暗がりの袋小路に見えたが、注意深く覗き込むとどこかへ通じる道が口を開けていた。
ミカルの持ち前の洞察力がなければ見逃してしまいそうになる入り口だった。
他の場所とは雰囲気が違い、ここにいるのではないかと直感して通路を急ぐと、果たしてその先にアロンの白い影を見つけた。
部屋に踏み込むと同時に、その惨状にミカルは息を詰めた。
壁は焼け焦げて床は抉れ、石碑のようなものが大破して散乱していた。
アロンは部屋の中央、わずかに砕けず残った石碑の前にうずくまっており、ミカルは慌てて駆け寄った。
「アロン先生!」
ミカルの呼びかけにアロンは一瞬肩を震わせて体を起こした。
軽く火傷を負っている以外に目立った傷はないようでミカルは胸をなでおろす。
あのアロンとここまで激戦を繰り広げたものは一体なんだったのか、ミカルには想像もつかない。
そして、こんなにも脆く崩れそうな彼を見るのは初めてだった。
束縛を解かれた反動で放心し、心をむき出しにしているような危うさがあった。
常と違う様子に不安が募り、遠慮がちに声をかけた。
「泣いているのですか?」
アロンは何かを大切そうに抱え直し、少しだけ間を置いてミカルを振り返った。
いつも通りの柔和な笑みを浮かべていた。
「大丈夫、泣いていませんよ」
アロンが泣いている姿など見たくはない。
けれどほっとすると同時に、どうしてか泣いていてほしかったともミカルは思った。
ビビアン→
2011/06/12