指輪物語

スランドゥイルについて

 一言で言うと「とてもおいしいキャラクター」です。記述は少ないけれど辿った道のりははっきりしていて、想像によっては上古から、そして第四紀にも君臨しているのが確定している、おそらく中つ国最後のエルフ王。『シルマリル』にも『ホビット』にも『指輪物語』にも絡めることができて、記述が少ない分だけ想像の余地があってとてもおいしい。『ホビットの冒険』だけでもかなり魅力的だし。

 出生一つ取っても妄想が膨らむキャラクターです。母親はキアダンの娘にしてみようかとか、オロフェアと血縁関係がない「オロフェアがどこからか拾ってきた養い子」とか謎めいていて好きだし、いっそメリアン様の隠し子……げふんげふん。キアダンとはどうにかして血縁を繋げてみようと思っています。理由は私がキアダン好きだから。
 スランドゥイルはエルロンドと同世代という説をどこかで見て、ベレリアンド水没後に東へ向かうオロフェアが古森を通りかかってトム・ボンバディルとゴールドベリの子を譲り受けたとか。私の中でゴールドベリの見た目のイメージがスランドゥイルにそっくりなんですよ。髪の色とかも似てるし。あの二人のノリはシルヴァンエルフに通じるものがあるし。それはさすがにねーなと封印しましたが。
 でも戦乱に倦み疲れてたどり着いた緑森大森林。その国の王子が希望溢れる子エルフだったというのは正直捨てがたいです。闇の森の幼いレゴラスに通じるものがあって。
 だけどやっぱりドリアス所縁のエルフであってほしいので、うちのスランドゥイルはギリギリで星々の時代生まれのネルドレスの森暮らし。森暮らしの理由は名前の意味が「河向こう」や「河渡る」らしいので、メネグロスと河を挟んだ向こう側の森に住まわせてます。物語的には「オロフェアの妻が森で暮らすことを望んだため」。後にシンダールとナンドールを分けた(正確には霧降山脈ですが)アンドゥインを渡ることになるし、川の向こうに岩屋を建てるし、含蓄な名前だと思います。

 性格は華奢さを感じさせないほど大胆不敵。民には惜しげもなく優しい面差しを向けると同時に、誤れば時に咎も与える信賞必罰なひと。「ガリオンは罰として皿洗い500年」とか。敵には容赦しないがそれは闇の勢力に味方する者に限る。何だかんだで気に食わないドワーフにだって情けをかける懐の広いひとです。
 表向きは宝石狂いな宴会王で底抜けに明るいけれど、実際は多くの傷と喪失の痛みを抱えていると思うんですよ。  ドワーフに王を殺されて同族に故郷のドリアスを滅ぼされ、二度までも同族に蹂躙されてシリオンを追われ、戦いはもうこりごりだと質素で平穏な緑森での暮らしを享受していたら、戦うしか道がない戦の最後の同盟で父を失った。王位に就いて束の間の平和を取り戻している間もモルドールの恐怖に怯えていて、真っ先に闇が戻ってきたのが自分の膝元。じわじわと闇に浸食されていく森を救う力もなく、後退するしかない。その後は闇の勢力の最前線で踏みとどまっている。これがほとんど公式な設定なのだから相当壮絶だと思います。
 強気な言動の裏側でトラウマ持ち。それだけでもう萌え。だけどそれを一切表に出さないのがスランドゥイル。奪われて失って逃げることしかできなくても、最後には力強く笑うんです。第四紀の中つ国を謳歌したらどうするんだろうなぁ。西へ行くのか、まだまだ謳歌したりないと未だにどこかの森で宴をしているのかもしれない。

 指輪物語の舞台からは離れているし、記述は少ないしでいまいち影が薄いスランドゥイル王ですが、彼がいなかったら闇の森は完全にサウロンのものになって、中つ国はもっと恐ろしい世界になっていたと思うんです。
 スランドゥイルがいなければ、ひいてはオロフェアがシルヴァンエルフをまとめ上げなければ彼らは簡単にサウロンの手に落ちただろうし、奴隷扱いならまだしもアヴァリのように堕落させられておぞましい生き物にされていたかもしれない。
 サウロンから見れば正直スランドゥイルは木端に等しいと思う。はっきり言ってさっさと高位なガラドリエルやエルロンドを全力で始末してしまいたい。だけどしぶとく生き残って倒れないし、だからと言って放置できるほど小さな存在でもない。目の上のたんこぶ。最前線の闇の森のエルフを滅ぼしたら次はロスロリアンで、そうなると裂け谷も危ない。第三紀のスランドゥイルが担う役割はかなり大きなものだと思います。
 それからドル・グルドゥアは第二紀のオロフェア統治の時代にアモン・ランクと呼ばれた丘で、かつてはオロフェアとスランドゥイルがそこに住まっていたりとなかなか因縁めいた話です。

 そして指輪の守護もなしに闇の勢力の最前線に踏み止まる様がかっこいい。
 闇の最前線に指輪は持ち込めないというだけかもしれませんが、個人的には三つの指輪が隠される時にオロフェアに打診があったと思いたい。その場合はキアダン経由で使者が緑森を訪れて「”ノルドールが作った三つのもののうちの一つ”を持ち込むだと……!?」と青筋が切れかかったオロフェアに追い返されたりとか。いつか小説にしてみたい。

 ……スランドゥイル様への情熱を書き綴ったらえらく長いことになってしまった…。

・2011/12/06追記
 買ったばかりの「マスター・キートン」の5巻を読んでいたら“スランデイロ”という地名が出てきて胸がときめきました。
 その地名が出てくる話のタイトルは「デビッド・ボビッドの森」と「デビッド・ボビッドの帰還」。偶然ですかねこれ。アクション系の話でした。ちなみに今の所「キートン」で一番好きな話は「アザミの紋章」です。最後涙がじわっときて鳥肌がぶわっときます。
 話を戻して、場所は英国の南ウェールズ。洞窟がたくさんあるとのこと。ますますスランドゥイルっぽい。
 調べてみるとスランデイロの綴りは「Llandeilo」みたいです。自然豊かな田舎町、みたいな所なのかな。小さな町みたいです。
 古城なんかもあるようで、しかも地下に鍾乳洞があるとか!カレグ・セナン城(Carreg Cennen Castle)というらしいです。
 スランデイロではCwrwという銘柄のビールが製造されているらしいです。ワインじゃないのが惜しいところ。だけどすごく歴史ある銘柄みたいです。
 その紹介をしているページにこんな一文が載っていました。

Drink water like an ox and wine like a king (Welsh proverb)
水は牛のように飲め、ワインは王のように飲め (ウェールズの諺)
 うん、すばらしい。
 「スランデイロ」で検索すればここにある情報はすぐに見つかると思います。なにせ日本語ページの件数が少なすぎるので。
 ちなみにGoogleで検索かけてみたんですが、「もしかして:スランドゥイル」と返ってきました。さすがです。


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