「うーん…」
風邪はすっかり全快し、外出禁止令もようやく解けて、心置きなく外に出られる。
しかし青空の下で、サマイクルは二枚の羽根を手に悩んでいた。
オキクルミが見たらその隙だらけの背後からど突かれて、雪にのめり込んでいることだろう。
「サマイクル、体の調子はもうよいのか?」
そんな時に通りかかったのは、運よくオキクルミではなくトゥスクルだった。
泣かれるほどに心配をかけてしまったこともあって、サマイクルは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
けれどトゥスクルの方は忘れてしまったかのようにけろりとして、前と同じように接してくる。
彼女の気遣いなのか素なのか。ともかくサマイクルにはそれがありがたい。
「もう問題ないよ、トゥスクル。」
「それで、何をうんうんうなっている?」
トゥスクルがサマイクルの手の中のものを覗き込んだ。
彼女が喋るたびに、目隠しの面にとまった二羽の梟がパタパタと羽ばたく。
サマイクルも当の本人も物心ついた頃からそうだったため、異様な光景ながら気にする者はいない。
「きれいな羽根だな。」
まじまじと二枚の羽根を見詰め、感嘆する。同じ鳥類の面を持つ者としては、少し羨ましい。
どこで手に入れたのか問うと、
「命の恩人のものなんだ。」
病床のサマイクルを見舞ったときに聞かされた、不思議な青い隼の話。
隼にオイナ族の大人が導かれた所までは話してくれたが、途中で咳き込んでしまったためその先を聞けずじまいだった。
そういえば、カイポクもコロポックルに会ったと言う。
ただ一人謹慎を言い渡されなかった身で見舞いに行き、皆の話を聞いて回った時、自分だけのけ者にされた気分だった。最も、死ぬ思いをするのは御免だが。
そして、カイポクの案内でポンコタンへ行く計画は着々と進行中で、ばれた時は一蓮托生。四人仲良く村長の拳骨をもらう事になるだろう。
「これをどうしたら肌身はなさずに身につけていられるだろうか?」
ずっと考えているのだが、なかなか答えが出ない。
しばらく二人一緒に唸って、トゥスクルが切り出した。
「耳飾などはどうだろう?」
いっそのことしおりにしようかと思っていたサマイクルは即座に賛同して、トゥスクルと共に村の細工職人のもとへ駆けていく。
その様を見守っていたように一羽の隼が高く鳴いて、天高いところを飛翔していった。
2007/01/14