九龍妖魔學園紀

君の目つき


 とある放課後、阿門のいない生徒会室。
 役員三人がそろって会議で使う資料の準備も完了し、あとは阿門の到着を待つだけの段階。
 そんなぽっかりと空いた暇な時間のこと。

 お香の話題で盛り上がる神鳳と双樹を横目に、夷澤がぽつりとつぶやいた。
「センパイってどこ見てるんだか分かんないっすよね。」
 むしろ起きているのか寝ているのかも分かりづらいと、この際だから常々思っていたことを口にする。
 無論、それは神鳳に向けられたもの。
 夷澤の言葉を受けて神鳳の眦が少しだけきゅっと吊り上ったように見えた。
「僕の目が細いのは事実ですがね、それは言いすぎでしょう。」
 言葉遣いはいつも通り丁寧だが、常よりも心なしか語気が荒い。
 そんな神鳳を意に介さず、夷澤は普段の意趣返しをこめてからかうように続けた。
「めいっぱい開くとどのくらいになるんすかね?」
 神鳳は、今度はあからさまに眉根を寄せて渋面をつくった。
 ところが、
「あたしも興味があるわ。」
 思わぬところで双樹が夷澤の側について、神鳳は観念したように小さく息をついた。

「これが限界ですね」
 ぐっと目を見開いてみせた。…つもりだった。
 見開いても常人の半目程度だろうか。
 すっと通った目じりと、意外と黒目勝ちな瞳が夷澤を流し見る。
「怖ッ!」
 思わず口に出たが、怖いというよりも神鳳なだけに霊力というか、妖力でも宿っていそうな気がする。
 白目の部分が少ないのも手伝って妖しさ三割増しといったところか。

 目が疲れたのか力を抜くと、いつもの柔和な顔つきに戻り、
「いえいえ、夷澤の眼鏡を外したときの目つきに比べたら…。」
 涼しい顔をして当てこすりを言う。
 事実この學園には夷澤の目つきの悪さで右に出る者はいない。
「それもそうね。」
 と、双樹が神鳳に同意し、そこで雑談は終了した。
 きりの良いところでようやく阿門が到着したためだ。そのせいで夷澤は反論の余地を失ってしまう。
 阿門の現れるタイミングと一連の流れに既視感を覚えつつ、それを振り払うように会議に集中することにした。



2008/06/08
2011/12/10題名の変更と、誤字と文章を少しだけ直しました。

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