九龍妖魔學園紀

間食時にて


 阿門も役員も全員そろった生徒会室。
 会議も終了したところで、双樹がつぶやいた。
「なんだかお腹すいちゃったわ。 何かなァい?」
 おやつの時間には遅すぎて、夕食にはまだ少し早い。そんな中途半端な時刻。
「カップ麺ならありますよ。」
 そう言うと神鳳は戸棚から取り出してみせた。
 小さなおやつタイプで、4個で1パックになっているもの。さらに割り箸まで備えてあった。
 こと生徒会室に関しては、阿門よりも神鳳の方がくわしかったりする。
 神鳳が持ち込んだものも多い。部屋の隅にあるやかんと一口コンロもそうで、会議の前や後によくお茶を淹れてくれる。
「そんなものがあったのね。 一つもらうわ。」
「阿門様はどうなさいますか?」
「もらおうか。」
 小腹が減っている上でここまで準備が整っていて、断る理由はない。
 それにカップ麺というものは目の前にあるとどうにも手が出てしまう。
 そして、特に示し合わせたわけではないが、三人は口をそろえてこう言った。


「「「夷澤、お湯。」」」


「………ちっ、やりゃいいんでしょ。」
 さすがに生徒会室の中に水道はなく、外までくみに行くしかない。
 上下関係にうるさい性格が災いして、先輩三人には逆らえない夷澤だった。


「シーフードをミルクで作るとうまいと思いません?」
「…胃が重くなりそうですね…。」
「確かに、牛乳だけだとくどそうね。」
 和気藹々…かは分からないが、雑談をしながら三分間。阿門は黙って三分間。
 蓋をあけてかき混ぜて、いざ食べようという段階になって、
「……むぅ…」
 神鳳の動きが止まる。  顔を傾けるとカップに髪が入りそうになり、耳にかき上げてもすぐにスルスルと落ちてきてしまう。
 悪戦苦闘する神鳳をみかねて双樹が助け舟を出した。
「お互い大変よね。 ゴム使う?」
 ありがたく受け取って髪をくくる。
 神鳳の髪をかき上げる仕草を堪能していた夷澤としては少し残念ではあるが、髪を上げた神鳳と双樹もまた新鮮で良い。
「食べないんですか夷澤? 麺がのびますよ。」
 うっかり見すぎた。
 取り繕うようにスープを飲んでいると、お約束のように眼鏡が曇る。
「くそっ、これだから熱いものは嫌なんだ。」
 神鳳の髪結い姿が見えやしない……というぼやきは寸でのところで飲み込んだ。
 眼鏡のレンズを拭く夷澤を尻目に、神鳳と双樹は長髪の悩みを語り合っている。
 自分の団子頭を解放したらどんな反応をするだろうか。
 麺をすすりながら阿門はそんなことを考えていた。



2008/07/13
個人的に「牛乳でシーフード」はお湯と牛乳半々くらいが好みです。そしてやっぱり夷神。
2011/12/10 タイトルの変更と、文章を少し直しました。

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