犬夜叉

刀々斎の回想


 刀々斎は考えた。
 「さすがに自分と殺生丸は仲悪すぎじゃねーか?」と。
 なにせ犬の大将の形見分けの時ですら直接顔を合わせることがなかった。
 あの時は事情が事情だけに、八つ裂きにされていた可能性は富士の山より高いが。
 そもそも殺生丸と顔をあわせた回数など片手の指で事足りてしまう程度のはず。
 それがなぜこうまで相性が悪いのか。
 そこで回想してみることにした。殺生丸と初めて会った日のことを。


* * *


 やはりと言うべきか、きっかけは犬の大将からの紹介だった。
 父の友人で懇意にしている優れた刀鍛冶との面通しといったところか。
「刀々斎、紹介しよう。これが息子の殺生丸だ。」
 大将の傍らに正座する白皙のおもて。年は近々初陣を迎えても良いような頃合か。
 ニコニコ顔の父と対照的に、殺生丸は対面に座す刀々斎をただ興味なさそうに視界にいれているだけだ。
 きれいに伸ばされた背筋に似合わず“父に言われたから来ているのだ”というような釣れない風情だった。
 その父はといえば、自慢の一粒種を紹介できて満足気に腕を組んで胡坐をかいていた。
「ほー、こりゃあまた、」
 刀々斎は飄々としてと不躾な視線をじろじろと殺生丸に送る。
 殺生丸のほうは意に介さないようで無表情を貫いていた。
「別嬪な娘っ子だなー。」
 犬の大将はずっこけた。戦場でも見られないような体勢で見事なまでにひっくり返った。
 殺生丸のほうは微動だにせず、やっぱり無表情のままだった。
 ただし、まるで近づけば脳天から真っ二つにかち割られそうな無言の迫力をまとっている。
「ええい、分からんでもないが息子だって言ってんだろがすっとこどっこい!!」
 立ち直った闘牙王に胸倉をつかまれてがくがくと揺さぶられる。
 殺生丸が席を立つ。
 あくまでも無表情だが、身にまとう威圧感やら迫力やらオーラが増しに増していた。
「ああ待て、殺! こんな大ボケ爺でも腕だけはいいんだ!!」
 父の制止を聞かずにさっさと立ち去る殺生丸。
 最初から最後まで声を発することはなかった。


* * *


「……ってのが初対面だったなー。」
 気の抜けるような間延びした声で聞かされた話に、犬夜叉とかごめは開いた口が塞がらない。
「…よくその場で殺されなかったもんだな…。」
「きっと父親の顔を立てたのよ。健気じゃないあんたのお兄さんは。」
 顔を引き攣らせた犬夜叉に、かごめもようやく声をしぼり出す。
 刀々斎はなにがいけなかったのかと首をひねりながら焦げたひげを扱いている。
 そりゃ恨まれもするわと、二人は溜息をついた。



2007/08/25

←BACK
inserted by FC2 system