「…嫌な天気だな…。」
東方司令部の司令官執務室で、ロイは不機嫌そうに呟いた。
中央から仕事のついでに親友に会いに来たヒューズは、窓の外に目をやる。
今朝方は晴れていたはずの空を薄く雲が覆い、申し訳程度にしとしと雨がパラついていた。
「お前さん、雨の日は無能ちゃんだからなあ!」
「……お前までそんなことを言うのか?」
いつものように親友をからかってやると、じっとりと渋い表情で睨まれる。
部下たちにも言われたらしい。不機嫌に拍車を掛けている。
「悪い悪い!ロイちゃんは有能だもんなぁ。」
懲りずにおどけて言ってのけるとロイは無言で発火布を装着し、ヒューズは今度こそきちんと謝った。
「……俺は、嫌いじゃないぜ?」
一通り漫才のような遣り取りを終えると、ヒューズは呟いた。ロイが何のことだと問い返す。
「雨。」
「…私だって嫌いというわけではないが…。お前はそんなに友人が狼狽する様を見たいのか、ヒューズ?」
むくれるロイとは対照的にヒューズは何が面白いのか、一呼吸置いて口元に笑みを浮かべた。
「そうかもしんねぇな!そしたらお前、もっと周りのやつら頼ってくれんだろ?」
「……ヒューズ…。」
ロイの目指す先。それは遠く、困難な道程であることは必須だ。
それでもロイは、それらを一人で背負おうとしてしまう。
「皆もっと頼ってほしいと思ってんだぜぇ?なぁ、ローイ??」
「分かった!分かったから!!ヒゲ気持ち悪い!!!」
マース必殺“おヒゲじょりじょり”を本気で嫌がるロイ。
ロイはあの殲滅戦以来、自分は変わってしまったと言うが、ヒューズにはそう思えなかった。
生きて帰ってきて当時まだ恋人という関係だったグレイシアと再会して、隣にロイがいて。それだけで帰ってこれたと実感できたのだから。
そう思うのは長い付き合いのせいか、腐れ縁のせいか…。
ともかく、この士官学校の学生時代から変わらない反応を示す親友を、どこまでも押し上げてやろうと思う。
あの地で雨は降らなかったけれど。
――雨が降れば“焔の錬金術師”は無能さんで。
お前は“国家錬金術師”として、“何も”しなくてもいいんだから…。
ヒューズはあんな馬鹿らしい召集が二度とかからないことを祈り。
傷を器用に覆い隠すことのできる親友を抱き締め、誓いを決意として刻み込む。
ロイは相変わらず、親友のヒゲのこそばゆさと格闘していた。
2005/03/02
最後のほう“雨”とは関係なくなってるような…。力量不足です…。