「マースってば、せっかく見つけた四つ葉のクローバー、ぼくにくれちゃうんだよ。」
「だって、俺もロイから花もらったし。」
無邪気に今日の収穫を見せてくる子供たちを、母親はにこやかに見詰める。
そのかわり一言も言葉をはさまないのが逆にこわい。
「あのね、それから秘密基地であそんだんだよ」
「そうそう、広くていいところなんだ!」
「それでね…」
「それで、」
黙って話を聞いていた母が、ようやく口を開いた。
「ずいぶんと冒険した所にあるようね、その秘密基地は。」
急斜面を転げ落ちてすでにボロボロだった二人だが、その後はしゃぎまわり、帰りに斜面を這い登ったために服の裾はほつれ、すっかり泥だらけの風袋となっていた。
親としては叱りつけたくもなる。
「だって…ねぇ?」
「あー…その…」
言い訳を考える二人を「だってじゃありません」と静かに一喝する。
マースはロイの母親が怒るのを見るのは初めてだが、静かに叱られるというのも初めてだった。
彼女とて服を汚したから怒っているわけではない。
森は子供が考える以上に危険な場所だから。蛇や野犬だって出るだろうし、現に二人とも運が悪ければケガだけではすまなかったかも知れない。
かと言って、子供の遊び場を奪うような野暮はしたくない。
二人が素直に謝ると、彼女もほっと微笑んだ。
「二人ともちゃんと帰ってきたってことは、その秘密基地は迷子になるようなところにはないのね?」
「そんなに奥じゃない…よね?」
ロイが同意を求めると、マースもこっくりと頷く。
そして期待のまなざしで母親を見上げた。
「そのかわり、そこから奥には入らないこと。」
親の公認が得られ、二人はハイタッチをして歓声をあげた。
そんな子供たちをまぶしく思いながら、風呂の湯を確認にいく。
二人で入る風呂は長いから、その間に汚れた服もどうにかなるだろう。
「お風呂沸いたから入っちゃいなさい」
「「はーい」」
2007/02/10