鋼の錬金術師

勘違い


 気になって気になって気になってしかたがないヤツがいる。
 姉貴に聞いたら、こういうのを“恋”っていうらしい。
 さんざん小突かれて、聞かなきゃよかったとも思ったけど、聞かなかったら分からなかったからな…。
 いつか見返してやる…覚えてろよな…!
 お相手は去年引っ越してきたロイ・マスタング(5歳)。
 マース・ヒューズ(7歳)。あんたの息子の初恋だぜ母ちゃん…。 …いや、母さんは関係無いんだけど。


「今年はどんな役になるかな、マース?」
「え?あ…ああ。どうだろうな。」
 ロイによって夢の世界へ旅立ち、ロイによって現実へ引き戻される。子供ながら重症だと思う。
 そういえば集会所にいくところだっけ。
 ロイの言う役っていうのは、そっちで言う(?)“町内会”とか“子ども会”みたいな地域ぐるみの祭りというか、その中に子供だけで劇をするっていう出し物があるわけだ。
 配役は毎年PTA…じゃなくて、劇を教えてくれるお母さん方とかが決めたりするけど、色々揉めたりするみたいだから(大人の事情ってやつ)、近頃はクジばっかりだったりする。
 去年は子供内で投票して役を決めた。そうしたらロイはお姫さまの役だった。
 そりゃそうだよなぁ…かわいいもん。お姫さま役すんげー可愛かった。ロイはなぜか不満そうだったけど。
 あー…、ちなみに俺は魔王の役だった。どうせ王子顔じゃねぇよ。

「――で、悪魔さんはマースね。」
 姉よ、なぜそんなに嬉しそうに告げる。それにしても、俺ってよっぽど悪役に好かれてんだなぁ…。
 姉貴は何年か前に子ども会(?)は卒業していて、今は裏方の手伝いとかしてる。
 決め方、今年はいわゆる“あみだクジ”ってやつだった。ある意味俺のくじ運ってすげぇ…。
「あ、天使さんはロイちゃんねv」
 あー、じゃあ姫役は別のヤツか。…ちょっと残念。
「…前はお姫さまでこんどは天使さん…。」
 ほっぺ膨らませてむくれる顔もかわいい…v
「いーじゃん、かわいーってゼッタイ!」
 やっぱりロイは不満そうで。ロイってちょっと変わってるよなぁ・・・。
 髪だって伸ばせば絶対似合うと思うのに。女の子が男の格好するの、流行ってるけど。


 劇の練習も順調に進んで、今日には衣装合わせも済んだ。
 ロイと手を繋いで歩く、いつもの帰り道。ロイを独り占めできる時間。
 もう少しこの時間が続けばいいと思っても、そうはいかないんだよな…。
「じゃあね、マース!」
「おう!明日がんばろーな!」
 ぶんぶん手を振るロイに俺も振り返す。やっぱかわいいなぁ…v
 天使の衣装、めっちゃ似合ってたなぁ。

 ……ちょっと待て。
 あんだけ可愛いんだ。狙ってるのは俺だけじゃないかもしれない…。
 やばい。
 誰かに先越される!!?

「そんなの嫌だああぁあああ!!」

 追いついてきた不審者を見る目をした姉に声を掛けられるまで、俺は道端で悶えていた。


* * *


 なんだかんだ言って、当日。
 俺は去年と同じような真っ黒な羽と衣装を着て、反対にロイは真っ白な翼と服だった。
「二人とも可愛いわv がんばるのよロイ、マース君v」
「うん!がんばるよ…おばさん。」
 子供ながら、こんな綺麗な人を“おばさん”と呼んでしまっていいのかとか思ってしまう俺って、やっぱマセてんのかな…。
「…ロイ、どうした?」
 何だか、ロイの表情が暗い。
「うん…お父さんにも見てもらいたいな…って。」
 ロイの親父さんは仕事がいそがしくて、なかなか家に帰ってこられないらしい。
 去年引っ越してきたのだって、仕事の都合だって言ってた。
 おばさんは何か考える素振りをみせて、屈んでロイを目線を合わせた。
「天使さんがそんな顔してたら、お姫さまを助けられないわよ?ロイが頑張れば、来てくれるかも知れないわ。」
「本当に!?」
 途端にロイの表情が明るくなる。やっぱロイは笑ってた方がかわいいなぁ。
 おばさんもにっこり笑って、ロイと俺の頭をなでてくれた。あー…俺の母さんもこんなんだったらなぁ…。


 幕が上がって、拙い劇が始まる。
 微笑ましい演技に目を細めた。
「早く来ないと、ロイの出番が来ちゃうんだから。」
 ローザは誰にともなく呟いて、ドアをちらちら振り返った。


 劇が終わって、カーテンコールも済んだ。
「だいせーこーだな、ロイ!」
 この充実感を分かち合おうと振り返ってみると、ロイはすでに親御さんの集まる人ごみの方に駆け出していて。
 “やったね、マースv”とか言って抱きついてきてもバチはあたんねーぞ、ロイ…。
「まー、ロイらしいっちゃあロイらしいんだけどなぁ。」
 釣れないところもまたかわいい。……重症だな、俺。

「あ、お母さ――ぅわ!?」
 母親を見つけてとてとて走っていたロイが、ふわりと宙に浮き上がった。
 すっぽりと、男の人の腕に収まっていて。
 あ…もしかしたら、この人…。
「だーれだっv!?」
「ぁ…おとうさん!!」
「正解!」
 やっぱり。
 黒眼黒髪で眼鏡をかけていて、背はそれほど高いってわけじゃなさそう。お人好しっぽい雰囲気で、…いかにも子煩悩そうな…。
「会いたかったぞロイーーーっ!天使ちゃん捕獲ーー!!」
 ……やっぱり。
 この人、ものすごい親馬鹿人間だ。
 周りの目をものともせず、よくやるなぁ。おまけに軍服だからよけいに目立ってるよ。
 ロイの父さんって、軍人だったんだ…。それっぽくないなぁ。

「あなた、周りの人に迷惑よ。」
「仕方ないだろう?丸一年会ってないんだから。ロイだって嬉しいだろう?」
「うん!」
 見るからに仲の良い親子。父親があれだけ騒げば注目されないはずがなくて。
「あ、どうも初めまして。セルディ・マスタングです。えーっと、見ての通り軍勤めでして…。」
「もぅ、せめて着替えてから来ればよかったのに。」
「だって、一刻も早く二人の顔を見たかったからさ。」
「…あなた…v」
 ……ごちそうさまです。

「あの…こんにちは。」
 重くなったなぁ、とか感慨に浸ってるのを邪魔するのは悪いと思ったけど、あいさつをしないわけにはいかない。
「やあ、もしかして君がマース君かい?妻からの手紙で聞いているよ。」
 ロイをおろしつつ、微笑んでくれた。第一印象は良好。

 …まてよ。物語でこんなシーンがあった気がする。
 ご両親がそろっていて、俺の印象は良好で。
 ……よっしゃ!言っちまえ俺!こういうのは言ったもん勝ちだ!!思い立ったが吉日!!!

「…おとうさん。」
「何だい、マース君?」
「ロイを俺のおよめさんにください!!」
 言った。言ったぞ俺!
 おとうさんポカーンとしてるけど、そりゃそうだろうなぁ。
「マース、およめさんって…」
 ロイがきょとんとした顔で聞いてくる。
「俺とロイがケッコンして、ずーっといっしょにいることだ!」
 ちょっと違うかもしれないけど、だいたいこういうことだろ。
「ずー…っと、いっしょ?」
「うん。俺はロイのことが好きだから、ずっといっしょにいたい!」

 ロイの父さんが何か言おうとするのをおばさんが遮って、眼鏡を奪い取った。
「え…あの、ローザ?」
「あなたってば“ロイは嫁にも婿にもやらないー”って喚きそうだから、」
 図星らしく、言葉に詰まる父。にこーっと綺麗に微笑むその奥さん。
「ちょっと向こうに行ってて、ね!」
 思いっっっきり、眼鏡を遠くへぶん投げた。
「ああッ!メガネメガネ!!」
 壊れたら直してあげるわvと大慌てで眼鏡を拾いにいく夫を見送って、俺たちに視線を戻した。

 …いいのかそれで。確実にレンズはヒビ…へたすりゃ割れたな。…まぁ、いいか。
「えっと、それでロイは俺のこと…きらいか…?」
「ううん。マースのこと、好きだよ。」
 マジで!?
「でもマース、知らないの?ケッコンは大人のおとこのひとと、おんなのひとがするんだよ?」
「あ…そっか。子供じゃムリか。」
 ロイってホントにしっかりしてるよなぁ。

「それに、おんなじ性別じゃケッコンはできないんでしょ?」
「………は?」

 なに?ロイって俺のこと女だと思ってんの?
 んなアホな。
「俺、男だけど。」
「僕も男の子だよ?」

「…………??」  −マース・ヒューズ(7)混乱中−
 …“僕も男の子”って言ったかロイ?マジで?あ…、でも思い当たるフシがあるような無いような。ああ、そういえばいつも服はズボンだったし……(中略)……で、そもそも“ロイ”って名前じたい良く考えなくても男の名前なわけで。

「わー!マースっ!?」
 体がぐらっと傾いて、確かぶっ倒れたんだと思う。
 ロイの声が聞こえた気もするけど、そこらへんの記憶が飛んでて、覚えてなかったりする。



2005/04/03
ロイのパパさん…やっと出てきたのにバカっぽくなってしまった…。マース君もごめんよ。書いてて楽しかった(笑)
セルディさんは眼鏡がないと無能です。(笑)

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