「……大…佐…？」
　ホークアイの珍しく狼狽した声にハボックは振り返り、銜えていた煙草が口から落ちた。
「な…何なんスかその格好！！」
「うるさいうるさい！！だっ…大総統命令だ！！」
　ロイの格好といえば、いつものきちっとした軍服姿ではなく、事務のおねぇさんがはいている膝丈のスカートと革靴姿だった。
　色白の素足が眩しい……ではなくて。
　ハボックがロイの生足に見惚れていると、扉が開いて声がかかる。
「着替えは済んだかね、マスタング大佐？」
　ロイの執務室に居座っていたこの国で一番偉い人物、キング・ブラッドレイ大総統が大層ご機嫌な様子で出てきた。
「はっ！閣下のご要望通りに。」
　軍人の鑑のような敬礼をしながら、（こんのクソジジイ…！！）とか思っていたのは秘密である。
「……ッ！マスタング大佐！！」
　突然の恫喝に、ロイとその場にいたホークアイとハボックも身を固くした。
　何か気分を損ねるようなことをしたのだろうか。ロイはプラス脳内の罵詈雑言を読まれたのかと、不安な面持ちで言葉を待った。
　そして、脱力する。
「スカートが長いッ！！！」
　一点の曇りもない隻眼で、そんなことを言われても…。
「この中のものに着替えたまえ！」
「……Yes,sir…！！」
　差し出された紙袋を受け取り、ロイは力なく敬礼をする。
　誰も、衣装持参かい！！と突っ込む勇気も度胸もなかった…。

「き…着替えました…！これでよろしいのでしょうか、大総統閣下…！！」
　おずおずと躊躇うように隣室から出てくるロイ。羞恥と怒りで憤死しそうなほどに顔が赤い。
　ブラッドレイが持参したスカートは極端に短く、ロイの長い脚が曝け出されている。
　滅多に日が当たらないため色は白い。軍人のわりに細い線は、引き締まっていていっそのこと目に毒だ。
「うむ、ご苦労だったな。…おお、上出来だよ大佐。」
　ブラッドレイはひとしきり眺めて労いの言葉をかけた。
　褒められて嬉しいわけがない。
（何が上出来だこの変態総統！！！）
　ロイは短いスカートの裾を何とか伸ばそうと引っ張りながら叫んだ。無論、心の奥底で。
　ハボックが態度には一切出さずにガッツポーズを決め、不謹慎だと思いながらも大総統命令万歳と叫んだことは彼のみが知る。
「今日は司令部内の視察だったな。さて、行こうかマスタング大佐。」
　ブラッドレイはにっこりと笑って立ち上がり、ロイにとっては屈辱的な一日が始まった。


「………。」
　廊下にいたのは大総統の護衛として同行したアームストロング少佐、仕事で東部を訪れていたヒューズ中佐。それに、偶然司令部に立ち寄ったエルリック兄弟だった。
　各々の心中は不明だが、一様に無言である。
（少佐はまだともかく、何でこんな時に限ってヒューズや鋼のまで…！！）
　ロイは泣きたくなる気持ちをぐっと堪えた。
「中々似合っているであろう？」
　笑いながらブラッドレイはのほほんと言ってのける。
　ところで、とブラッドレイは何か思い出したようにロイへ向き直った。
「アレも身に着けてくれたのだろうね？」
　びくりと明らかにロイの表情が強張る。
「………はい。」
　視線をあさっての方向へ泳がせながらも頷くのを見て、ブラッドレイは満足気に笑った。
「私もまだ柄を知らんのだよ。ふむ、今日中に当ててみせようかね。」
「お…お戯れを！！」
　ロイは慌ててスカートの裾を押さえた。

　大総統の視線や発言、ロイの慌て方を総合してみると、どうやら下着まで指定さてたらしい。
　それを当てると言い放つのだから、とんだ変態総統だ。
　だが、そんな空気もブラッドレイの一言によってガラリと一変する。
「そうだ！私一人楽しんでもつまらんからな。皆も参加するといい。私よりも先に当てられた者の優勝だ。」
　最高権力者の言葉⇒パンチラ・スカート捲り公認
　という身勝手な脳内変換が行われ、周囲は悶々と殺気立った。
　ロイが放心していると、がちゃりとシリンダーを押し込む音。
「……ご安心ください、大佐。私が死守いたします。」
「我輩もお手伝いしよう。こういうことはやはり良くない。」
「中尉…少佐…。」
　強力な助っ人を得て、ロイは感激のあまり視界が潤んだ。


　司令部内に何度目かの銃声が響く。
　ハボックの手にあった手鏡が粉々に砕け散った。
　それまでにも、ホークアイ曰く匍匐前進していたエドワードをゴキ○リと見間違って誤射し。また、暴発した銃弾がヒューズが持っていた団扇に偶然命中したり…。
　アームストロングもロイの背後にピッタリと張り付き、鉄壁の防衛となっている。
　二人とも大活躍だ。
　ブラッドレイもそれを見て楽しんでいるのか、暴発・誤射を黙認している。
　さすがに大総統本人には手が出せないので、ロイが必死でかわしていた。


　各自必死の攻防は続き、また視察も始まったばかりだった……。

2005/03/04
「一日大総統」では体操服だったので、メジャーな（？）ミニスカは閣下にやってもらいました。