「俺の両足、感覚無いんスよ。」
そう告白して、あいつは辛そうに顔を歪めた。
でもそれは一瞬で、いつものようにへらりと笑った。
いつもへらへら笑っていて、銜え煙草がその茫洋さに拍車をかけていて。
それでも真剣な時はその穏やかな空色をした瞳が厳しく輝くことを、私は知っている。
「…ハボック。」
中尉が席を外して、幾分か時間が経った。
ハボックが、ゆっくりとこちらを向く。
「何スか?」
煙草を銜えていないだけで雰囲気が変わるものだなと、どうでもいいことを思う。
「…本当…なのか?」
「こんな嘘ついて何になるってんスか。」
何がと問い返されずに小さく安堵するとともに、聞き返さなくても何のことだか分かってしまっていることが…辛い。
冗談であってほしい。
今なら冗談だと白状しても、軽く炙るだけで許してやる。
嘘であってほしい。
そう思って、あいつの足を叩いてみた。
「残念ですがね、大佐。何も感じないんですよ。」
「…ここもか?」
…私も、往生際が悪い…と思う。
「……だから、言ったでしょ?“一抜けた”って。」
右頬を、大きなハボックの手で撫でられる。
…その目は私のことを心配している目だ。
お前の方が症状がひどいのに。
それでも、嬉しいと感じてしまう私は…随分と都合がよくて―――浅ましい。
「あまつさえアンタと同室で二人っきりだって云うのに、あーんなことやらそーんなことも出来ないんスよ?全く、これじゃ蛇の生殺しっスよ!」
「……オイ…。」
「こんなんじゃ、アンタの後ろを歩くことさえ出来ない…。だから、大佐…」
「それなら、」
急に真顔になったのが、怖くて。それ以上言ってほしくなくて遮った。
「私が上に乗ればいいことではないか。」
「………は?」
自分でも、馬鹿なことを言ったと思う。
「あの…アンタ何する気っスか?」
それでも、この空気を誤魔化せるなら構わないとも思った。
「何だ?ここの感覚はあるんだろう?」
「ええ。そこんとこはバリバリに…じゃなくて!人がマジメな話をしようと思ってんのに!!」
「…先に不真面目な話をしてきたのはどっちだ…。」
そう云う…バカ正直なところも…好きだったりする…。
…口に出しては言わないが!!
「…私からするのがそんなに嫌なのか…?」
「イエ、とてつもなく喜ばしいことっス」
……もうここまで正直だといっそのこと清々しい。
「お互いヤケドっ腹なんスし。……大佐」
「黙っていろ…。」
それ以上聞きたくなくて、直接口を塞いだ。
「…っは…あっ、く…」
濡れた音が耳について、幾度となく行為を重ねても自分の声が未だに信じられなくて、耳を塞ぎたくなる。
自分で服を脱いで、自分でここまでしたのは…初めてかもしれない。
ハボックの腹部に巻かれた包帯を見て、自分に試してからやったものの、もっと他にやりようがなかったのかと今更ながら思う。
「大佐、無理しないで俺に寄っかかっちゃってくださいよ。」
「だ…が、お前に負担が…」
……そう思うならしなければよかったんだが…。
成り行きはどうあれ、二人きりになれて嬉しいというのは事実だったわけで…。
「人のこと言える腹っスか。それにこのままじゃ俺もアンタもイケないでしょ。」
「う…。」
正直腹が痛くて、…白状すると…気持ち良くて動けそうになく。
ハボックの匂いが心地良くて、引き寄せられるままにしがみ付いた。
長身に見合った体格と腕の長さは伊達じゃなくて。
腕の力だけで、揺すられる。
「あッ…!…ふ…ぅ、んっ…!」
ここが自分の家でも、ハボックのアパートでもないということを忘れそうになる…。
「あんまり…声出すと、美人の看護師さんに聞こえちまいますよ?」
何だか私だけ切羽詰っているようで…面白くない。
「うるさ…い…っ」
どうしても…声が上擦る…。
火傷は慣れてると思っていたのに、引き攣るような痛みは慣れることはできない。
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。
久しぶりで、昂ぶりすぎたのか…。
……多分…違う。
ハボック…どうやら自分でも気付かないくらい、私はお前に依存していたようだ。
お前はいつでも私の後ろを歩いていて、振り返ればお前がいて…。
それが当たり前だと思い込んでいた…情け無いな…。
永遠なんて、無いと知っていたくせに。
永遠なんて、無いと分かっていたくせに。
つい一ヶ月前、それを身をもって思い知らされたばかりだというのに。
…否、だから…だ。私は、信じたかったから…。
ハボック…ジャン・ハボック…。
私は……お前を切り捨てられるだろうか……?
2005/06/09
同視点でのハボロイです。……とりあえず、読んでくれてありがとうございます…。(恥)
どうしてもハボックを切り捨てられなくて、それをハボック本人に責められる…っていうロイも妄想中。