各地を飛び回っているエドワードが東部へ戻ってまずすることといえば、恋人であり一応上官でもあるロイへの帰還報告だった。
なんだかんだで憎まれ口を叩いても、そこはお互い好き合う者同士。
会いたいものは会いたい。
はやる気持ちをおさえつつ彼の執務室を訪ねるも、現在大通りを視察中とのこと。大方視察にかこつけた散歩だろうと想像がついた。
もうじきハボックが連れ戻してくるだろうとはホークアイの弁。
そのホークアイもエドワードのためにお茶をいれに行って、今は部屋に一人きり。
弟のアルフォンスは兄に気を遣ってか、司令部にはエドワード一人をよこしてホテルで留守番していた。
「…ったく、人がせっかく来てやったってのに、どこほっつき歩いてやがる。」
どっかりとソファにもたれながら、いつもロイが鎮座する席に視線をむける。
ふと、机の上にある白いものが目に留まった。
「大佐の発火布だ…。」
予備をしまい忘れでもしたのか、珍しく仕事は片付いているようで整頓された机上に無造作に置かれている。
興味本位でその手袋をはめてみた。
手の甲にある錬成陣のししゅう以外は、いたって普通の手袋に見える。
――これでドッカンドッカンやるんだからすげーよな…。
過去に何度か彼の生み出す焔を目の当たりにしたし、自身も成り行きであの凄まじい焔の爆風に吹き飛ばされたこともある。
――…大佐にできるくらいだしなー…。
自分のものよりも少し大きい手袋を、握っては開いてを繰り返すうちに、物騒な考えが頭をよぎる。
――俺だって錬金術師だし。
「鋼のが来ているのなら、もっと早く言いたまえ。」
ハボックに捕獲されて司令部に連れ戻されたロイに、お茶を盆にのせたホークアイがエドワードの来訪を伝えると、彼はつとめて平静に執務室へ足を運んだ。
本人はいつも通り振舞っているつもりなのだろうが、はたから見れば嬉しくてたまらないという顔をしている。心なしかその足取りも軽い。
こんなに喜んで執務室に行ってくれるなら、毎日でもエドワードに来てもらいたい。
内心そう思いつつ、ホークアイもハボックと並んでロイに続いた。
「鋼の……」
「あっちいいいいいい!!!」
ドアを開けた瞬間に聞こえたのは、エドワードのつんざくような悲鳴だった。
* * *
「………ごめん。」
「まったく、人の発火布を…。」
手袋を受け取りながら肩をすくめてみせるロイに、エドワードは素直に非を認めた。
「そうおっしゃるのなら、大佐も管理を徹底してください。」
「…はい。」
エドワードにお茶をすすめながらピシャリと言い放つホークアイに、ロイは小さくなって引き出しに発火布をしまった。
エドワードが指をこすって出した焔は、幸いにも彼の前髪のアンテナを焦がしただけで消え去り、大事にはいたらなかった。
「でもまあ、これで他人の錬成陣を使うことの難しさと恐ろしさがわかったことだろう。」
「そりゃあもう、十分すぎるほどに。」
こりごりだというように焦げた髪をいじる。
基礎中の基礎ならともかく、人が違えば理解も千差万別。指紋のように、まったく同じものなど無いに等しい。複雑になればなるほど、おのずと錬成陣の形もかわってくる。
だからこそ、難しい。
「それに、子供が火遊びをするとおねしょをするよ言うぞ。」
真顔でのたまうロイにエドワードは、これで満足かというように盛大にずっこけてみせた。
「火遊びして寝小便かます歳に見えるか、この無能大佐ーーーー!!!」
「な…なぜそこまで怒る?」
力いっぱい突っ込むエドワードに、ロイは本気で当惑していた。
* * *
その夜。
「…っは、…あ…あっ」
エドワードが繰り返す律動に、ベッドがぎしりと軋む。
「大佐、どうしてほしい?」
「鋼…の、もっと…欲しい…ッ」
めずらしく積極的なロイに応えるように、押し付けるようにして奥の方を抉る。その度に白い背がそってシーツから浮いた。
それを押さえ込むゆに抱き寄せて、ロイの限界が近いことを見て取り、更に追い上げる。
「あっや…もう…、んっ…鋼の―――ああ!!」
ベッドの音も気にならない、白い世界に飛ばされる―――。
「…さん……兄さんってば!」
アルフォンスに揺すり起こされ、エドワードはゆっくりと目を開いた。
「…んだよアル…いい所だってのに…」
夢心地でつぶやいて、今度こそしっかりと目が覚めた。
ここは司令部に程近いホテルの部屋。
会議で遅くなるからと、今日はロイからおあずけを食らったのだと思い出した。
「ちくしょー…夢かよ…」
道理でロイが素直に喘いで積極的なはずだと落胆する。
ベッド脇の小さなスタンドに照らされた時計は午前2時を回ったところだった。
「で、何か用かアル?」
「…その…寝言がいたたまれなくて…。」
歯切れの悪い弟の言葉に、ついさっきまで見ていた夢を思い出す。
ロイが素直なのをいいことに、色々といかがわしいことをした気がする。
夢の中で自分は何をいっただろうか。弟とはいえ他人聞かれて良い類でないことは確かだ。
一体どれだけがアルフォンスに聞こえてしまったのか、考えるだけで薄ら寒い。
ふと、下着の中の異変に気付いた。
アルフォンスに気付かれないように探ってみるが。
――げ…やっぱり…。
あんな夢を見ておいて、下半身がただでは済むまいと思っていたが、出すものまで出てしまっていては少々へこむ。しかもまだしっかりと元気なままだ。
「いやー、寝言うるさかったか?ごめんな。」
いつも通り振舞おうとして逆に硬い笑みを振りまいて、やや前屈姿勢でトイレに向かう。
本人がいたって自然なつもりなのだから悲しい。
「……兄さん。」
「な…なんだ?」
あと少しで弟の視界から逃れられるというところで声をかけられ、トイレのノブに手をかけた状態で振り向いた。
「あんまり大佐のこといじめちゃダメだよ。」
その日一晩中エドワードはトイレにこもった。
ユニットバスでよかったと心底思ったという。
2006/07/08
火遊びをすると大人は大人でおねしょをする…。(ちょっと下品か)